2025年
菅野歩美 Ayumi Kanno
- インスタレーション
- 映像
- 絵画
- Tara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクト
観測線の外側で見つけた海
1994年東京都生まれ。2025年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人から人に伝わる知識の総称「フォークロア」をテーマに、ドローイングや3DCGを使った映像インスタレーションを制作している。
菅野歩美 Ayumi Kanno
フォークロア(民間伝承)を手がかりに、その土地に息づく記憶や物語を作品へと紡ぐアーティスト・菅野歩美さん。2025年、Tara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクトの香川大学庵治マリンステーションを拠点とした調査に同行しました。
フォークロアとは、民間伝承よりも広い意味をもち、その新旧を問わず人から人へ伝わる知識の総称として、習慣、伝承、幽霊譚、からネットミームなどをも含む概念です。菅野さんは、そうした各地のフォークロアをリサーチしながら、ドローイングやビデオを中心としたインスタレーション作品を制作しています。
フォークロアをキーワードに土地について掘り下げることで、新しい視点を獲得できると語る菅野さん。今回の調査地である瀬戸内海とは、意外な繋がりがあるそう。
「8年前に東かがわ市の引田町で瀬戸内海と水辺にまつわる伝承をあつめて作品をつくりました。その縁もあって、今回のプロジェクトのお話をいただきました。」
今回の調査では、大きな時間の流れや人と海とのつながりの中でその場所を見ることにつながったそうです。
「調査の時にミルという海藻を初めて見たのですが、図鑑で調べると、江戸時代につくられたミル模様の器が紹介されていて、同じ海藻を通して過去の人と繋がる感覚がありました。」
また、科学者から海の森(藻場)が減っていることは、地上の森が減っていることに比べて意識されにくいという話を聞いたこと。散策しながら、磯場の石一つにも生態系が存在していることを、調査の合間に科学者から教えてもらったことが印象に残ったそうです。
調査での経験や気づきは、その後の作品《観測線のそとで》へとつながりました。
調査期間の5日間、海洋研究者たちとともに瀬戸内海の調査に同行して感じたのは、観測や測定のために引かれた線の外側で生まれる出来事の豊かさだった。研究者たちは、正確な一点のデータを得るために、膨大な作業を積み重ねていた。その傍らで教えてもらった、小惑星のようなライブロックの生態系や、海藻の色彩の変化に心を奪われた。肝心のデータ採取の現場では、酔い止め薬の副作用で眠ってしまい、何とも気まずい思いをした。けれど調査の軸となる観測線の外側で、私は調査記録には残らない光やかたちを追いかけていた。本作は、ドローイングと映像によって、その“観測線の外側”で起こる揺れや曖昧さを描きとめようとした記録である。そこにあるのは、観察と感覚のあいだに浮かぶ風景——科学の目と人の目のあわいで見えた、ひとつの海の記憶である。
菅野さんの今後の制作について聞いてみました。
「ふだんのインスタレーション作品制作では基本私ひとりで行っているのですが、Tara JAMBIOをきっかけに、異分野の専門家と協働する面白さを実感しました。2026年の9月には、アイルランドのダブリンにて3ヶ月のリサーチと滞在制作を予定しています。アイルランドも海に囲まれた国なので、今回Tara JAMBIOで得た気づきを今後の制作にも活かしていきたいです。」
海での経験は、これからの菅野さんの表現にどのような広がりをもたらすのか。その歩みにも注目です。