2025年
泉イネ INEIZUMI
- デッサン
- 絵画
- Tara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクト
佐渡でのある出来事が、一つの作品を生んだ
旅をするように 描きながら分野や土地を渡り歩く。近年は服飾装画を描いた45Rシーズンカタログの原画展を工芸青花・Mizuho Oshiro Gallery・森岡書店にて開催。2008年から続く「未完本姉妹」制作より『本姉妹の本にまつわる話』(赤々舎)、素描挿画を手がけた88星座詩集『星空のピルグリム』(瀬戸一洋著 PURPLE)など書籍を刊行。
泉イネ INEIZUMI
ご自身を「アーティスト」ではなく「絵描き」と名乗る泉イネさん。
2025年、Tara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクトの新潟大学佐渡臨海実験所を拠点とした調査に同行しました。普段は装画など受注制作の仕事と、自身のアートワークの絵を並行して制作しています。
泉イネさんが佐渡での調査に参加するきっかけとなったのは、東京藝術大学から突然届いた連絡でした。大学時代、佐渡島を訪れたことがあり、さらに、絵描きとしての活動を一時休止していた2016年にも、再び佐渡を訪れていて佐渡島とはゆかりがありました。
思いがけない誘いでしたが、「佐渡島に呼ばれたような感覚があった」と泉さんは振り返ります。
また、タラ オセアンの存在も以前から知っていたそうです。
「アニエスベーが始めた活動だということは以前から知っていました。6年間続けていたファッションブランドの挿画の仕事も環境に関わるテーマが多く、自分の中でも制作と環境について考えていた時期でした。」
調査に参加してみて、「単純に楽しかった」と語る泉さん。調査期間中は、写真を撮りながら、丁寧に記録を残していました。特に興味を引かれていたのは、研究器材やダイビング器材など、研究を支える「道具」でした。
「研究そのものだけではなく、それを支える”脇役”のような細かな存在にも目が向いたんです。」
研究者たちと話すなかで、彼らもまた矛盾やジレンマを抱えながら調査をしていることを知り、共通点を感じたといいます。
「絵描きも、アクリル絵の具の使用やアート活動そのものが環境に与える影響に対して、ジレンマを抱えながら制作しています。」
調査期間中時点では、「作品というより、記録のようなものにしたい」と考えていた泉さん。しかし、調査最終日に起きたある出来事が、記録以上の一つの作品を生み出すことになります。 それが 『8-3/庭 Bluecarbonkey』 です。
鍵
・できるだけ物をつくらない
・できるだけ自然に還る素材
・いま在る物事との組合せ
在る物事 : 経験/記憶(影と光)/拾った物/感情/感覚/想像/文字/空間/矛盾
佐渡島滞在の最終日、七日間泊まっていた施設を出る15分前に鍵を失くしてしまった。8-3と記されたロッカーの鍵。滞在初日に渡されたその鍵は最終日にプロジェクトリーダーのWさんへ返却することになっていて、30分前まで部屋の机の上の目立つところに置いてあった。部屋を出る際、片手で鍵を握ったところまでは確かにあったのに、エントランスでWさんへいざ渡そうとすると……ない。ポケットにもリュックにもキャリーにもない。その場に居合わせた方々も一緒に部屋からのルートを探してくれたのに、鍵は見つからなかった。帰りの車やフェリー、新幹線で、この出来事を不思議に想っていると、ふと、ブルーカーボンキーという言葉が浮かんでくる。以来、ときどき青い鍵が脳裏をよぎっている。ある研究者が「ブルーカーボンはまだ分からないことばかり」と言った時から5ヶ月過ぎようとしている今、七日間の記憶から未来へ何を描けるだろうかと夢をみる。
作品に添えられたQRコードからは、佐渡の6日目までをつづった滞在記をご覧いただけます。
https://20250622-0628sitjap.jp/
久しぶりに訪れた佐渡について、泉さんは「改めて本当にいいところだと思った」と話します。
「歴史的にも環境的にも、とてもポテンシャルの高い島だと感じました。」
自分を「アーティスト」と括らない彼女は、今後の活動についても「流れに委ねたい」と語ります。
「できれば、自分が気に入った土地で絵を描いていたい。そして、サステナビリティや環境との関わりについても、自分なりのバランスを見つけていきたいです。」
佐渡での7日間の記憶は、『8-3/庭 Bluecarbonkey』という作品となって新たな旅を始めました。
そして、絵描き・泉イネさんの旅も、これからも続いていきます。