2025年

後藤理菜 Lina Gotoh

観測線の外側で見つけた海


2000年宮城県生まれ。東京藝術大学先端芸術表現科修士課程在籍。東日本大震災で実家が全壊した経験や、東北を旅・生活する中で、自然から感じる“ヌミノーゼ”(理性の把握を超えた、薄気味悪い、神霊的なもの) に興味を持ち、フールドワークから絵画作品を制作。また、積極的に地球科学分野の研究に同行し、2024年には地球海洋調査船みらいに乗船し北太平洋を渡った。

後藤理菜 Lina Gotoh

東京藝術大学大学院先端芸術表現科に在籍する後藤理菜さんは、自然の中に潜む、理性では捉えきれない神秘的なもの「ヌミノーゼ」に関心を持ち、作品を制作しています。

後藤さんの原点は、宮城県気仙沼市。三陸ジオパークに指定された地域で育ち、幼い頃から化石や地形など、自然の営みに親しんできました。

「海岸にはフズリナの化石が広がっていて、川では化石を拾うこともできました。小さい頃から自然の事象に触れる機会が多かったんです。」

さらに、東日本大震災での被災体験も、自然をより深く知りたいという思いにつながったと振り返ります。

「震災を経験したことで、自然という存在をもっと理解したいと思うようになったのかもしれません。」

後藤さんは、タラ以前にもJAMSTECの海洋地球研究船「みらい」に約1か月半乗船するなど、自ら研究者へアプローチし、科学調査に参加してきました。

今回タラの調査に参加した理由は、「アーティストを受け入れる仕組み」そのものへの興味でした。

「これまでは自分から研究者にお願いして調査に参加していました。タラはアーティストを受け入れる体制があって、その違いがどんなものなのか知りたかったんです。」

調査生活そのものは、これまで経験した海洋調査と大きく変わらなかったと言います。一方で、アマモという海草を手作業で仕分ける時間が、新たな発見をもたらしました。

「アマモにはヨコエビやワレカラなど、本当にたくさんの小さな生き物が暮らしていました。その存在を知って、作品にも登場させています。」

さらに印象に残ったのは、研究者から教わった“アマモの味”。

「アマモの栄養株の根をかじると、本当に甘かったんです。ウミガメが好んで食べるという話にも、なるほどと実感しました。」

後藤さんは、自然が本来持つ力「ピュシス」に強い関心を抱いています。そのため、科学調査にも「自然を多角的に捉える一つの視点」として参加していると言います。

しかし調査現場で見た科学は、対象を論理=ロゴスとして理解し、人間のシステムへ組み込もうとする営みでもありました。

「一見すると相反するピュシスとロゴスを、アートではどうつなげられるんだろうと考えました。」

その答えとして辿り着いたのが、「ミュトス(神話・物語)」という方法でした。

作品《アマモ:海→陸→海》は、女川での調査だけではなく、その前後に参加した複数の研究体験から生まれています。

東京大学大槌研究センターではウミガメのバイオロギング研究に同行し、「ウミガメはアマモを食べる」という話を聞きました。また、筑波大学下田臨海実験センターでは潮間帯の生態系を学び、厳しい環境で生きる生物たちのたくましさに触れました。

そうした知識と調査体験が重なり、「海から陸へ進化し、再び海へ戻ったアマモ」の物語は、後藤さんの中で想像へと広がっていきます。

「アマモが海から陸へ行って、また海へ戻ったと聞いて、『逆浦島太郎じゃん!』って思ったんです。『潮間帯でくじけているのかも』『ウミガメに食べ残された破片が海を漂って種をまいているのかも』と、物語がどんどん連鎖していきました。」

作品では、海藻由来の素材に加え、女川での調査記録や、船の揺れに合わせて描いた波のドローイングも展示され、科学と神話、観察と想像が一つの空間で交差しています。

現在は資金面の課題から継続的な調査参加は難しいものの、今後も地球科学の現場に関わり続けたいと語ります。

「コンスタントに調査へ参加できる仕組みをつくりながら、これからもサイエンスとアートを橋渡しできるような存在になりたいです。」

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