2021年
菊地 良太 Ryota Kikuchi
- 映像
- Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査
想像力を働かせること

東京藝術大学 芸術未来研究場 特任講師 1981年千葉生まれ 東京藝術大学美術学部 先端芸術表現科卒業、東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻修了。フリークライマーとしての独特の視点を美術表現へと変換させ、都市や風景に内在する様々な領域や境界線を可視化させる作品を発表している。
菊地良太 Ryota Kikuchi
2021年に筑波大学下田臨海センターにて行われたマイクロプラスチック共同調査に参加した菊地さん。その後、彼の作品「salt」が制作されました。
この作品はひたすらキラキラと光るアスファルトを映し出した映像作品ですが、菊地さんは制作背景について次のように語っています。
「実際に船に乗り、河口や湾内、湾外で採取したサンプルを顕微鏡で見てみると、どのサンプルにもマイクロプラスチックが存在していました。マイクロプラスチックの中には、洗顔料や歯磨き粉に含まれるスクラブ剤として使用される小さなプラスチックがあることも知りました。」

これは「マイクロビーズ」と呼ばれるマイクロプラスチックの一種です。一般家庭などの排水溝から下水処理を経て、最終的に海へ流れ出ていきます。
今まで特にそのようなことを意識せずに生活していた菊地さんですが、調査に参加したことで新たな視点を得たそうです。
「調査から戻った私は、地元の海沿いの公園にスケボーを持って散歩に出かけました。海沿いのアスファルトの上には海水が干上がって塩がキラキラと光っていたんですが、今の私にはそれが単なる塩だとは思えなくなっていました。マイクロプラスチックの問題はもちろん環境問題ですが、私たちの生活において『もしかしたら』という想像力が足りないことが、問題を引き起こしているのかもしれないとも感じました。」

一見すると何気ない風景のようでありながら、その中に何が潜んでいるのか、何を見落としているのかを問いかけてきます。環境問題は、目に見える変化だけでなく、気づかぬうちに進行するものも多い。私たちが無意識に行っている行動が、問題の悪化に加担していることもある。だから、想像力を働かせることが大切なのだと、この作品は気づかせてくれるのです。
現在、東京藝術大学の芸術未来研究場で特任講師として活躍している菊地さん。この芸術未来研究場は、アートを人が生きる力の根幹に据え、人類と地球の未来を探求するための組織として、2023年に東京藝術大学のキャンパス外に創設されました。社会のさまざまな領域におけるアートの新たな価値や役割を広めるため、企業・官公庁・他の教育研究機関との連携を強化しており、その思想はタラ オセアンの理念にも通じるものがあります。
最後に、この芸術未来研究場で実現したいことについてお聞きしました。
「科学調査や論文だけではこぼれ落ちてしまう感動や、その場所がもつ美しさがあります。Taraでは、そうしたものをすくい上げることこそがアートの力であると考え、その理念のもとに、科学探査船Tara号へアーティストを乗船させているのだと私は理解しています。科学的知見と芸術的視点の融合のように、単に作品を作るのではなく、異なるもの同士をつなげていくこと。そのような役割を、芸術未来研究場でも数多く実践できればと考えています。」