2025年
柴田早穂 Saho Shibata
- 鋳金
- Tara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクト
1986年大阪府生まれ、5歳より小豆島で過ごす。富山大学芸術文化学部と東京藝術大学大学院にて鋳金を学び、東京藝術大学鋳金研究室教育研究助手を経て、現在は香川県小豆島に「宮の森鋳造工房」を構える。鋳造という技術を介して、土地の記憶やそこに生きる人々のいとなみをうつしとり、過去から現在、そして未来へとつなぐ作品を制作している。素材採取を起点に展開するフィールドワークでは、環境について学び、土地に根ざす声に耳を傾け、地域の人々と協働しながら、その過程そのものをインスタレーションとして提示する。また、小豆島にて「しょうどしま民俗座談会」を立ち上げ、聞き取り集の制作にも取り組んでいる。
柴田早穂 Saho Shibata
2025年、Tara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクトの調査に、アーティストとして参加した柴田早穂さん。
筑波大学下田臨海センター、香川大学庵治マリンステーション、新潟大学佐渡臨海実験所、北海道大学忍路臨海実験所の4拠点に同行しました。
柴田さんは、香川県小豆島に「宮の森鋳造工房」を構える鋳金作家。
作品制作のプロセスを通して、その土地に刻まれた歴史や風土、人々の暮らしの記憶を掘り起こし、かたちにしてきました。
今回の参加は、香川大学と東京藝術大学の連携プロジェクト「せとうち ART&SCIENCE」の一環として実施されている「かがわアートスタディーズ U18」に、柴田さんがアーティストとして関わっていたことがきっかけでした。
2025年度のTara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクトのアート活動も、「せとうち ART&SCIENCE」の枠組みの中で行われました。
「これまで、話し手の主観を大切にしながら、かつての人々のいとなみを記録してきました。今回このプロジェクトに参加し、科学的な視点で環境を捉え、科学データと民俗史を同時に読み解いていくことで、現在の環境や暮らしの成り立ちへの理解が深まるのではと感じ、参加することにしました。その理解を通して、私たちがこれからどのような行動を選び取るべきかを考えていきたいと思ったんです。」
通常、アーティストが同行する調査地は1か所であることが多い中、柴田さんは4拠点に同行。 それぞれの環境、民俗史、海の状況が大きく異なることを体感したといいます。
調査では、海藻押し葉の制作にも取り組みました。「私は海に潜ることはできませんでしたが、ダイバーや研究者の話を聞くことで、海藻の分布の変化や地域ごとの生息種などを知りました。また、海藻の同定を行う研究者の隣で一緒に観察することで、それぞれの魅力的な造形や構造にも触れることができました。」
この海藻押し葉の作品は、香川県三豊市粟島にある粟島芸術家内で開催している「Tara JAMBIO展」にて展示されています。
もうひとつの作品が、沿岸海洋学を専門とする研究者の中國正寿さん、写真家・映像作家の坪佐利治さんとの共同制作「瀬戸内の過去──現在──未来をつなぐアーカイブ Vol.1 海底泥の分析」です。
播磨灘の海底泥を分析する過程で分析装置から出た銀や銅などの廃金属を素材に制作。
研究と制作という異なるプロセスが出会うことで生まれる新たな試みや、環境と私たちの暮らしをめぐる対話を、映像作品として記録しています。
忍路での調査最終日には、すでにこの作品のアイディアを持ち、制作を始動させていたといいます。
「研究者とできるだけ近い状態で調査に参加したいと思っていました。ただ、専門性が必要な作業が多く、すべてに参加できるわけではありません。だからこそ、近くで話を聞き、研究者の思考をよく知ろうと務めました。 そのうちに、研究者自身についてもっと知りたい、サイエンスとアートの融合にはどのような可能性があるのかを、改めて見つめ直したいと考えるようになりました。そして、4拠点の同行を終えてからも、ブルーカーボンプロジェクトに参加されている研究者にさらに迫るような記録を作りたいと思うようになったんです。」
タラ オセアンではこれまでも「サイエンスとアートの融合」を目的とし、アーティストを調査に招いてきましたが、柴田さんは、その「アートとサイエンスの関係性」をさらに深く掘り下げようと思い始めました。
「ブルーカーボンプロジェクト内で採泥された堆積物が、その後どのような分析を経て、科学者によって何が解明されていくのか、調査の”続編”となる内容にしたいと考えました。また、その過程そのものを記録し、作品として残すことにしました。」
3人の活動拠点である瀬戸内に焦点をあて、科学的・文化的・民俗学的な融合のきっかけとなる作品がこうして作り上げられました。
「今回、合宿のような日々を共に過ごし、科学者の様々な考えに触れたことで、 サイエンスの領域に踏み出したいと思えたことが、私にとって大きな収穫でした。」
作品タイトルにある「Vol.1」が示す通り、このコラボレーションは始まりにすぎません。
柴田早穂さんの試みは、瀬戸内を起点に、アートとサイエンスの新しい関係性を問い続けていきます。