2021年
タオリグサリナ Sarina Taorige
- インスタレーション
- デッサン
- 彫刻
- 絵画
- Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査
顕微鏡の中を描く

1991年、中国内モンゴル自治区生まれ。 東京藝術大学先端芸術科修士課程を修了後、現在は同大学工芸科の木工芸専攻に所属し、木材を主な素材として作品制作を行っている。日本の伝統的な木工技術に深い関心を持ち、それらを学ぶと同時に自身の表現に取り入れ、木造の可搬式の交流空間を制作している。この空間を日本各地で移動させながら、人々の縁を結ぶ活動も行っている。 現代社会がもたらす便利さの影で失われつつある価値に目を向け、人と人、そして人とものとの間に長い時間をかけて培われる豊かさやつながりを探求している。制作を通じて、目に見えにくい時間や記憶、素材そのものの生命を感じ取り、それらを作品として表現することを目指している。
タオリグサリナ Sarina Taorige
2021年、筑波大学下田臨海センターで行われたマイクロプラスチック共同調査に参加したタオリグサリナさん。彼女は木材を主な素材として作品を制作しています。
内陸で育ったタオリグさんは「もっと海を知りたい」という思いから今回の調査に参加したそうです。
「海はいつも遠い存在でありながら、大きな憧れの対象でもあったんです。子どものころ、どこまでも広がる水平線の向こうに未知の世界を感じ、そこには自分の知らない大きな生命の営みや神秘があるのだろうなと想像してました。」
調査で船に乗り、海に身をゆだねる体験はどこか新しい世界への扉を開くような感覚だったといいます。さらに、顕微鏡でプランクトンやマイクロプラスチックを目にしたとき、小さな生命の力強さと、私たちの生活が海に与える影響の大きさを実感したそうです。
「微細なプランクトンが生態系で果たす役割、マイクロプラスチックがもたらす避けられない影響に強い関心と危機感を覚えました。けれど同時に、一つひとつのプランクトンが多様な形や色彩を持ち、まるで小さな宝石のように『とても可愛い』とも思ったんです。」


こうして制作された作品が「The World of Plancton」です。

透明な板にカラフルに描かれたプランクトンは、顕微鏡で観察した多彩な形と色を再現しています。

目に見えない存在を描くことで、生命の豊かさや繊細な美しさに心を動かされたと語るタオリグさん。
「マイクロプラスチックで汚染されながらも、まるで小さな英雄のように懸命に生きる海洋生物たちの姿に深く感銘を受け、自分たちの存在の小ささを実感しました。」

科学の目を通して未知の世界の豊かさや驚きを知ることで、観察した事実は自然と作品制作につながり、表現の深みや視点の広がりをもたらしました。この体験は、学びにとどまらず、芸術を通して自然と向き合う姿勢をさらに深める大きな契機となったそうです。
調査から月日が経った今も、海への探求心や憧れはますます強くなっているといいます。現在は、タラ オセアン ジャパンが活動拠点とする香川県・粟島に滞在し、制作を続けています。海とともに生きる人々の暮らしや、船乗りを育ててきた文化に触れながら、作品に新たな視点を取り入れています。
「海岸に打ち上げられるプラスチックゴミを見るたび、魚の減少について耳にするたび、海洋環境の深刻さを実感します。そうした体験が制作活動においてのテーマや視点の源泉となり、作品を通して海の豊かさや脆さ、人と自然の関わりを表現する大きな動機になっています。」
タオリグさんの粟島での滞在作品は、瀬戸内国際芸術祭2025・秋会期の期間(2025年11月9日まで)粟島会場にてご覧いただけます。