2020年
布下 翔碁 Shogo Nunoshita
- 彫刻
- 陶芸
- Tara JAMBIO マイクロプラスチック共同調査
「地球の中にある物質の形を変えることは、形を変えた私たちが責任をもたなくてはいけない。」
アーティスト、東京藝術大学 特任助手 1990年 広島県生まれ 「継ぐ」をキーワードに、やきものと漆の領域が融合した作品の制作や、工芸とアートプロジェクトの領域が融合した活動など、様々な視点から領域横断的な表現活動をおこなっている。近年のやきものと漆が融合した作品では、金継ぎの美学や技術を拡張することで、過去に生きた人と現代に生きる人の記憶を継ぐ作品シリーズを展開。また、工芸とアートプロジェクトが融合した活動では、工芸の素材を通して人と人や人と土地とが繋がる作品を展開している。
布下翔碁 Shogo Nunoshita
2020年10月、地元である広島県竹原のマイクロプラスチック共同調査に同行したアーティストの布下翔碁さん。
近年マイクロプラスチックが注目される中で、マイクロプラスチックがビーチや海の上に漂っているイメージは何となくもっていたが、海底の泥や砂などの堆積物の中にも存在しているという事実は全く予想していなかったそうです。
この時の調査で採集された堆積物の泥を使って制作されたのが「Placid ocean, Plastic ocean」です。
一見似たような単語が並べられていますが、直訳すると「穏やかな海、プラスチックの海」。
「僕は大学に進学するまで、竹原の瀬戸内海を見ながら育ってきましたが、その瀬戸内海のイメージは穏やかで、心を癒してくれる存在でした。その時はその海に目に見えないプラスチックが漂っていることは考えもしなかったことでした。そのような経験から、穏やかに見える瀬戸内海も、マイクロプラスチックの問題があるということが伝わるように、このタイトルにしました。」
やきものの素材を使ってアートプロジェクトを展開することが多い布下さんですが、当初は海底の泥を作品に使えるとは思っていなかったそう。
「このプロジェクトに参加して海底の泥を採集するまでは、やきものの素材となる土とは人が生活している下にあるもので、海の問題とやきものとは繋がっていなかったんです。このプロジェクトで、人類が生活している場所の延長線上である海の底の土に触れたことで、海のことを考えることは自分たちが生活している場所を考えることにも繋がっていていると実感しました。そこで、この経験をもとに、採集した海底の泥とやきもの技術を融合して、穏やかに見える瀬戸内海にマイクロプラスチックが漂っていることを伝える作品を考え始めたんです。」と語りました。
この作品は、誰もが見慣れたビニール袋の形をしています。実際に布下さんが1週間生活する中で排出したプラスチックゴミを型取りしたとのこと。
「私たちが生活の中で排出するプラスチックゴミが自然に戻らないことを、土にもどることのできない陶磁器という素材で表現した。」と布下さん。
布下さんはやきものの魅力について「窯から出てくるときにどんな色や質感になっているのか、蓋を開けるまで分からない。窯の蓋を開ける時はいつもわくわくする。」と語ります。
「やきものを作ることは、土を変化させること。」
プラスチックは古代に生息していた動植物が地中に埋もれた化石燃料が原料です。人との関わり方は全く違うけれど、どことなく重なってみえてきます。
「地球の中にある物質の形を変えることは、形を変えた私たちが責任をもたなくてはいけない。素材に触れた手を目に、地球を見つめてみたい。」