航海を通じて創造する――動き続けるアート
科学は常にアーティストたちにとってインスピレーションの源でした。この精神に基づき、タラ オセアン財団は、科学探査に新たな視点をもたらすために、クリエイターたちと密接に協働しています。アーティストたちはタラ号でアーティスト・イン・レジデンスとして乗船し、それぞれの独自の視点と創造力を通じて、海の豊かさ、科学調査、そして閉ざされた空間での船上生活をとらえ、再解釈していきます。彼らの目的は、海の美しさとその重要性を広く伝え、人々の関心と意識を高めることです。

海、物語の宝庫
昔から、知識の伝達は物語を通して行われてきました。16世紀の新大陸の発見や最初の海上交易ルートの誕生から、ダーウィンのような大規模な科学探査に至るまで、航海の物語や人間の冒険は、知識の普及に大きな役割を果たしてきました。
私たち一人ひとりが海と結ぶ個人的な関係は、地球上の多様な文化の反映でもあります。海に対する感じ方は、不安、安らぎ、興奮――など、それぞれが海という未知の世界との間に築いてきた深い関わりに根ざしています。
タラ オセアン財団は、科学探査を通して知見を届けるだけでなく、アーティストのレジデンスの場でもあります。アニエスベーとエティエンヌ・ブルゴワの尽力により始まったこの取り組みでは、これまでに50組を超えるアーティストがタラ号に乗船しました。
2004年以降、アーティストたちはそれぞれの視点と感性で、海の豊かさを描き出し、同時に、航海中に行われる科学調査の成果も広く伝える役割を担ってきました。
ピエール・ユイグ、グザヴィエ・ヴェイヤン、セバスチャン・サルガドといった芸術家たちは、この「海の冒険」の初期から参加してきたメンバーです。
境界なき創造性
タラ号でのアーティスト・イン・レジデンスは、アーティストにとって探求の旅です。
常に動き続けるこの環境の中で、彼らは適応し、創作のプロセスを築き、思索し、形にしていきます。画家、イラストレーター、写真家、彫刻家、作家、サウンドアーティスト、映像作家――
さまざまな分野のアーティストたちは、「見えないものを可視化」し、私たちの海に対する見方を変えてくれる存在なのです。

この豊かな創造の広がりを分野ごとに区切ってしまうのは、あまりに一面的な紹介になってしまうでしょう。
そこで2024年11月16日~2025年3月2日まで開催された展覧会 「La Grande expédition」では、「いのち(VIVANT)」「風景(PAYSAGES)」「汚染(POLLUTIONS)」「感覚(SENSIBLE)」「旅の記録(CARNETS DE VOYAGE)」という5つの大きなテーマを軸に、タラ号でのアーティスト・イン・レジデンスの成果を紹介しました。
パリの104(サントキャトル)との連携によって実現した特別な展覧会であり、さまざまなアーティストが持ち寄った世界観や視点をひとつの空間で響き合わせる貴重な機会でした。
クリスチャン・サルデによる《プランクトン・バレエ》、マノン・ランジュエールの《パルチキュル(微粒子)》、そしてオーロール・ド・ラ・モリヌリの作品。これらを通して私たちが語るのは、「いのち(VIVANT)」。
ニコラ・フロック、ヤン・バゴ、エマニュエル・レジャンによって描かれる「風景(PAYSAGES)」は、それぞれ異なる水平線を私たちに見せてくれました。写真、極細ペンによるドローイング、墨絵など、多様な表現手法を通して、海をめぐる新たな窓を開いてくれるのです。
サミュエル・ボレンドルフ、ローラ・ウィナンツ、ロベルティナ・シェビャニックらによる作品は、「汚染(POLLUTIONS)」を可視化し、これからの社会が直面する課題とその本質に光を当てます。

「感覚(SENSIBLE)」を通じて、エルザ・ギヨームは作品《Slices》で、私たちを快と不快のあいだに揺さぶります。またノエミ・ソーヴは、サンゴのもろさを私たちに思い出させてくれます。そしてその背景には、アントワーヌ・ベルタンによるプランクトンの優しい“声”が静かに響いています。
最後に、「旅の記録(CARNETS DE VOYAGE)」では、映像、イラスト、絵画、写真などを通して、動きのあるレジデンスがいかに芸術表現を変えていくのかを見つめ直します。そしてそれらすべての作品が、ただひとつ、同じ広大な水の空間――海――の上で生まれたことを思い起こさせてくれるのです。

海とつながる社会の核としての共創アート
この特別な展覧会がパリの104(サントキャトル)で開催されるまで、そしてThe Eyes Publishingとの共作による書籍『アートと科学が明かす海』を完成させるまで、私たちは長い時間を要しました。ユニークなアーティスト・イン・レジデンスに参加したアーティストたちの作品を、すべての人々と共有するために。
ひとつの目標は、海とのつながりを取り戻し、まだよく知られていない生物多様性に光を当て、海が気候システムに果たす重要な役割を示し、その海に影響を与える汚染問題を指摘すること――すべてはアーティストたちの視点によって実現されます。
また、来場者の心により広い問いかけを投げかける貴重な機会でもあります。
- 人間といのち(生き物)との関係とは?
- 人間の手は風景にどのような痕跡を残すのか?
- 生き物を脅かす目には見えない脅威とは?
- 海を感覚でとらえることは可能か?
こうした数多くのテーマは、現在、すべての人々と共有し、海の未来、さらには生きとし生けるもの全体の未来をめぐる対話を開くために欠かせません。
これらの普遍的な課題はできるだけ多くの人に届けられるべきであり、そのためにタラ号のレジデンスから生まれた作品は、多様な地域の中心地にて展示され、広くこの芸術的なビジョンと考察の海を共有していきます。

ニースにあるヴィラ・アルソンでは、展覧会「BECOMING OCEAN」が開催中です。この展覧会は、ヴィラ・アルソン、TBA21(ティッセン=ボルネミッサ・アート・コンテンポラリー)、タラ オセアン財団の共同制作によるもので、6月に同じくニースで開催された第3回国連海洋会議に呼応するかたちで行われます。
アーティストたちの新たな航海へ
2026年より、芸術的探究の新たなフィールドが広がります。画家、イラストレーター、写真家、彫刻家、作家、サウンドアーティスト、映像作家など、さまざまな分野のアーティストが、各探査ミッションの始動に合わせて、その研究テーマに寄り添ったプロジェクトを提案するよう求められます。
2026年3月には、タラ号による「タラ号サンゴプロジェクト」が始動。同時に、タラ オセアン財団の新たな探査船「タラ極地ステーション」は、気候システムの中枢ともいえる北極海の入口から、定点観測的な”動かない航海”へと出発します。この間、アーティストたちは、創作と体験の共有を通じて、この“聖域”への新たな視点を開いていきます。
タラ オセアン財団の船でのアーティスト・イン・レジデンスは、旅や科学探査、そして船上での共同生活という唯一無二の環境を通して、あらゆる芸術表現に新たな息吹をもたらします。
それは、つねに動き続ける創作と表現の場――。世界や芸術を見つめ直す別の視点をもたらしてくれるのです。アーティストたちは、船上の研究に関わるかどうかを問わず、それぞれ独自の視点で、まだ知られざるこの海の世界を探り、表現します。科学とアート、異なるふたつの世界が現実を見つめ、それぞれのアプローチでたどり着くのは、ひとつの共通した願い——それは、海の果たす重要な役割について、私たち皆が気づくことなのです。

今までアーティスト・イン・レジデンスでタラ号に乗船したアーティストたち:日本語のホームページでは、日本のプロジェクト、Tara JAMBIOに参加したアーティストもこちらでご覧いただけます。
François Aurat, Yann Bagot, François Bernard, Antoine Bertin, Samuel Bollendorff, Christian Cailleaux, Lorraine Féline, Benjamin Flao, Nicolas Floc’h, Cécile Fouillade – Siqou, Ellie Ga, Giulia Grossmann, Elsa Guillaume, Mara G. Haseltine, Rémi Hamoir, Pierre Huyghe, Katia Kameli, Irene Kopelman, Manon Lanjouère, Francis Latreille, Yoann Lelong, Ariane Michel, Leslie Moquin, Aurore de la Morinerie, Wilfried N’Sondé, Malik Nejmi, Claire Nicolet, Maki Ohkojima, François Olislæger, Arianna Pace ,Renata Padovan, Lola Reboud, Emmanuel Régent, Christian Revest, Sebastião Salgado, Christian Sardet et les Macronautes, Noémie Sauve, Robertina Šebjanic, Carly Steinbrunn, Lara Tabet, Laure Winants, Xavier Veilhan