大西洋横断・太平洋横断とは?

この記事では、海を長距離にわたって航海する「外洋横断」について詳しく紹介します。初期の海洋探検から現代の航路まで、大西洋横断や太平洋横断とはどのようなものなのか、そして帆船による航海を可能にする風や海流について解説します。さらに、タラ号サンゴプロジェクトで外洋横断した人々の証言を通して、長距離航海の実際の様子をご紹介します。

大西洋横断(transatlantic)や太平洋横断(transpacific)とは、数千海里にわたって、陸地から離れた外洋を航行する長距離の海上航海を指します。こうした航海は、歴史的に重要な海上航路の一部でもあります。

接頭辞「trans-」には「〜を横断する」という意味があります。

大西洋横断は、文字どおり大西洋を横断する航海のことで、一般的にはヨーロッパまたはアフリカと南北アメリカ大陸を結びます。

太平洋横断は、地球上でもっとも広い海洋である太平洋を横断する航海を指し、南北アメリカ大陸とオセアニア、またはアジアの間を結ぶ航路を指します。

外洋を航行するタラ号 ©Clémentine Benac – Fondation Tara Ocean

最初の大規模な大洋横断

大西洋横断の多くは、長い間、西ヨーロッパと北アメリカの間にある北大西洋に集中していました。大規模な定期航路が発展するはるか以前から、ヴァイキングはすでに北アメリカに到達しており、彼らがマルクランドと呼んでいた地域(現在のカナダ)にも渡っていました。 

一方、大西洋を横断する最初の定期的かつ組織的な貿易ルートが登場するのは、16世紀になってからです。1492年、クリストファー・コロンブスは、ヨーロッパとアメリカ大陸の間を航海し、記録に残る初期の大西洋横断航海のひとつを成し遂げました。その後も多くの探検家が航海を続け、交易や移民のための航路が開かれていきました。 

太平洋側では、16世紀にマゼランが航海するまで、ヨーロッパ人は太平洋を横断してアジアへ到達できるとは想像もしていませんでした。当時、太平洋はヨーロッパ人にとって、まだほとんど未知の海域だったのです。しかし、西洋の航海者が到達するはるか以前から、太平洋の島々には多くの人々が暮らし、海を航海していました。 

18世紀には、イギリスの探検家ジェームズ・クックが太平洋を横断する大規模な探検航海を複数回行い、広大な地域を地図に記録するとともに、海流や風についての知識を深めました。しかし、この海域に関する知識の多くは、案内役・通訳として船に乗り込んだタヒチの司祭であり航海士でもあったトゥパイアのおかげでした。彼の卓越した航海技術がなければ、ジェームズ・クックはニュージーランドに到達できなかったかもしれません。 

こうした初期の大洋横断航海は、未知の海域を探検するための冒険でした。

今日では、大洋横断は、世界の海上貿易や外洋ヨットレース、そして科学研究にとって重要な航路となっています。タラ号のようなスクーナー船も、その歴史の延長線上にあります。

ただ大陸を「発見」するのではなく、海をより深く理解するために航海するのです。

航海するタラ号 ©Vincent Hilaire – Fondation Tara Océan

海域を知る:風と海流 

大西洋は、北大西洋南大西洋の2つに分けられ、北緯60度から南緯60度まで広がっています。それぞれの海域には、温帯(北緯・南緯30度から60度の間 )と、熱帯(赤道から北緯・南緯30度まで)があります。

この2つの間には、高気圧帯があり、北側にはアゾレス高気圧、南側にはセントヘレナ高気圧があります。

また、南北の熱帯域が接する赤道付近には、よく知られた低気圧帯である熱帯収束帯(Intertropical Convergence Zone、略称:ITCZ )があります。赤道低圧帯 とも呼ばれます。 

このように、大洋を横断する長距離航海では、卓越風を正確に把握することが重要です。代表的なものには、次のような風があります。

太平洋でも、風のパターンは同様で、広範囲にわたって比較的穏やかな海域がある一方、季節によってはサイクロンが発生する海域もあります。

海面付近の海流は風によって生じますが、海洋深層における水塊の動き(熱塩循環)は、水の密度の違いによって生じます。この密度の違いは、水温や塩分濃度の変化によって生まれます。

大西洋では、主な海流として、メキシコ湾流(暖流)ラブラドル海流(寒流)、カナリア海流(寒流)などが知られています。

太平洋では、カリフォルニア海流(寒流)や太平洋赤道海流(暖流)などがあります。

こうした複雑な海流のネットワークは、航海に大きな影響を与えることがあります

タラ号サンゴプロジェクト:地球温暖化に耐えるサンゴの秘密を探る 

スクーナー船タラ号は、現在進行中のタラ号サンゴプロジェクトのため、大西洋、そして太平洋を横断しました。

18か月にわたる探査では、科学チームが、なぜ一部のサンゴは地球温暖化に耐えることができるのか、そしてサンゴ礁をどのように持続的に守っていくことができるのかを研究しています。

35日間ずつ10か所の調査海域を訪れ、学際的な研究チームが4種類のサンゴに注目しながら、生態系全体を調査します。

収集したデータは誰でも自由に利用できる形で公開され、これらの重要な生態系を効果的に保全するための取り組みに役立てられます。

タラ号の航海

コーラルトライアングルへ向かうため、スクーナー船タラ号はまず大西洋を横断し、続いて太平洋を横断しました。5月に調査海域へ到着して科学調査を開始するまでに、2つの大洋を相次いで航海したことになります。

タラ号は2025年12月14日にロリアンを出航し、2026年1月23日にパナマに到着して大西洋横断を終えました。この最初の航海を終えたタイミングで乗組員の交代が行われました。パナマは、2つの大洋をつなぐ重要な中継地点です。

その後、パナマ運河を通って南北アメリカ大陸を横断し、1月29日に太平洋横断を開始4月9日に東京に到着しました。アジアへ向かいながら徐々に調査海域へ近づく、2か月以上にわたる航海となりました。

パナマ運河の横断 © Gabriela Guberman – Fondation Tara Ocean

タラ号の現在地やこれまでの航路は下記よりご確認いただけます。

このような長期間の航海には、綿密なロジスティクスが欠かせません。大西洋横断・太平洋横断に必要な食料は、以下のように複数の段階に分けて補給されました。

それぞれの寄港地での補給は、数週間にわたる航海を安全かつ自立して続けるために欠かせません

タラ号サンゴプロジェクトの調査は、5月にコーラルトライアングルに到着してから始まるため、そこまでに乗船した科学者は数名程度で、航行を支えるためにボランティアが航海に参加しました。

船上では、船員が航海を担い、ボランティアや科学者も全員、当直や船のメンテナンス、船上での日々の作業を分担しました。

タラ号での航海 ©Clémentine Benac – Fondation Tara Ocean

この長い航海の日々は、科学調査を始めるために欠かせない大切なステップです。まずは、調査する海域にたどり着かなければなりません。 

航海中の日常 

昼夜を問わず、交代制の当直で航海を続けます。この絶え間ない交代が航海のリズムをつくり、操船、目視による見張り、帆の調整、気象データをもとにした航路の判断などが途切れることなく行われます。

なかでも、夜間の当直は特に強く印象に残るものです。

「満天の星空の下での夜間当直と、暖かい風!こんな緯度の海を航海したのは初めてでした!」

アンヌ=セシル(クルー兼コック)

睡眠は細切れになり、ずれた勤務時間に合わせていかなければなりません。誰もが、長期間の航海を乗り切るために、自分の疲労をうまく管理することを学んでいきます。

自分を守ること、疲れをうまく管理すること」と語るのは、20年近く船上での生活を続けてきたクルーのフランソワです。

当直と当直の合間には、眠ったり、本を読んだり、海を眺めたりしながら、普段とは違う環境の「日常から切り離された時間」を楽しみます。

つながらないでいること! 外洋航海では、ようやく何もしなくていい時間を持つことができます。ずっと頭の中を時速300キロで駆け巡っていたような考え事も、時間が経つにつれて何度も何度も向き合ううちに、やがて静まり、心の健康にとってとても有益な“空白”が生まれるんです

レア(ボランティア) 

航海と並行して、船のメンテナンスも常に行われています。帆の点検、機器類の整備、安全確認、清掃など、さまざまな作業をこなします。 

「船員になるには、これほどの身軽さが求められるとは思っていませんでした。動き回るときも、帆によじ登るときも、船倉の狭いところをすり抜けるときも、かなりの身のこなしが必要なんです。」

テオフィル(ボランティア)

連携が欠かせません。

船員、ボランティア、科学者の間には、これほどの一体感があります」と、副船長のルイは強調します。

タラ号で活動するクルーたち © Gabriela Guberman – Fondation Tara Ocean

天候が、航海の行方を大きく左右します。 そして、その航行性能には驚かされることも。「平均7.5ノットで航行し、9ノットを出すことも何度もあります!」とレアは話します。一方、ボランティアのガブリエラは「強い風が吹いていても、タラ号がこれほど傾かないこと」に驚いたといいます。

限られた空間で共同生活を送ることも、航海の大切な一部です。

うまく機能しているとき、みんなで力を合わせることが大きなエネルギーを生み出します。だからこそ、大切に育んでいかなければなりません」と、船長のレオは語ります。

思いやり、尊重、そして組織力が、貴重なバランスを保つ鍵となります。

当直、食事、ゲーム、会話……そうした時間をともに過ごすなかで、仲間とのつながりが航海を支える原動力になっていきます。

数週間にわたって限られた空間に集まって過ごす私たちにとって、仲間とのつながりは酸素そのものです」と、テオフィルは記しています。

タラ号でのマイカップ ©Clémentine Benac – Fondation Tara Ocean

航海を重ねるにつれて、それは厳しくも規則正しい日常になっていきます。規律を守り、状況に応じて柔軟に対応し、常に注意を払うことが求められます。

こうした人と船が一体となった、よく整えられた仕組みがあってこそ、科学探査が始まる前にタラ号を無事に目的地へ届けることができるのです。

タラ号船上からの声 

最後に、タラ号サンゴプロジェクトの大西洋横断・太平洋横断に参加したボランティアたちが綴った、船上日誌の一部をご紹介します。


大西洋横断航海からの一節

2025年12月21日 フロリーヌ(船上ボランティア)


2025年12月23日 フロリーヌ(船上ボランティア)


2025年12月28日 メラニー(船上ボランティア)


2026年1月5日 ティボー(船上ボランティア)

操舵室での航路設定 ©Clémentine Benac – Fondation Tara Ocean

太平洋横断航海からの一節 

2026年2月2日 レア(船上ボランティア)


2026年2月12日 アンヌ=ロール(船上ボランティア)

タラ号を訪れたカツオドリ  ©Gabriela Guberman – Fondation Tara Ocean

2026年2月21日 アンヌ=ロール(船上ボランティア)

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