海洋保護区:海を守るためのダイナミックなアプローチへ
海洋にかかる圧力が増すなか、海洋保護区(MPA)の重要性はこれまでになく高まっています。しかし実際には、多くの海洋保護区が空間的・時間的に固定された枠組みにとどまり、常に変化する海洋環境のダイナミズムに対応できていないのが現状です。
では、本当に効果的な海洋保護区をどのように実現すればよいのでしょうか。
科学コミュニティは、海洋保護区のあり方そのものを見直す必要性を訴えています。私たちもこの意欲的なビジョンに賛同します。科学とイノベーション、そして地域コミュニティの参画に基づいた、ダイナミックな海洋保護区の実現へ。
海洋保護区(MPA)とは?
海洋保護区(Marine Protected area: MPA)とは、生物多様性や生息環境、海の資源を守るために、人間活動が管理・制限されている海域のことです。
その形態はさまざまで、海洋サンクチュアリ、漁業保護区、海洋自然公園などがあります。
目的は、海の生きものを守り、生態系を回復させ、漁業・観光・科学研究といった利用を持続可能なものにすることです。現在、世界の海洋の約8.4%が海洋保護区に指定されています。しかし、この数字の裏には懸念すべき現実があります。
多くの海洋保護区が、十分な資金や監視体制を欠き、また常に変化する海の特性を考慮していないため、「紙の上だけの海洋保護区」にとどまり、十分な効果を発揮できていないのです。
なぜ海洋保護区は重要なのでしょうか?
海は、炭素を吸収・蓄積し、熱のバランスを保つことで、地球全体の気候を調整しています。
また私たちは、食料、文化、経済など、暮らしに欠かせない多くの面で海に依存しています。
しかし現在、海洋の表面積の66%が、複合的かつ増大する圧力にさらされています。
乱獲、さまざまな汚染、海水温の上昇、海洋酸性化、さらには外来種の拡大などがその要因です。
その結果、海の生物多様性は大きく失われつつあります。
リビング・プラネット・インデックスによると、監視対象となっている種の個体数は、1970年から2020年の間に73%減少しました。また、地球上に存在すると考えられるすべての生物種のうち、これまでに発見・記載されたのは11〜78%にとどまると推定されていますが、そのうち56%の種が著しい減少を経験しています。
このため、海洋生物は、淡水生物(85%減)、陸上生物(69%減)に次いで、3番目に大きな影響を受けている生物群となっています。
「2030年までに海洋生態系の30%を回復・保全する」という目標を達成するための有効な手段となり得ます。
しかし現状では、その運用はあまりに硬直的で、直面する課題に十分対応できていません。
効果的な海洋保護区のための6つの提言
2025年9月26日に科学誌 Nature npj Ocean Sustainability に掲載された論文(Esteban-Cantillo ほか/タラ オセアン財団 国際関係ディレクターのアンドレ・アブレウ氏も寄稿)では、現在の海洋保護区が抱える大きな課題が指摘されています。
それは、多くの海洋保護区が空間的にも時間的にも固定されたままであるという点です。
しかし、海は生きており、常に変化し、動いています。
海流、生物の移動、気候変動の影響など、海洋環境はダイナミックに変わり続けています。そこで科学者たちは、海のリズムに寄り添い、生物学的・物理的・社会的なダイナミクスを考慮することで、海洋保護区を本当に効果的なものにするための提言を示しています。
効果的な海洋保護区に向けた6つの提言:
1 空間的・時間的な保護を組み合わせる
→種の移動や繁殖周期、栄養塩(鉄・マンガン・硝酸塩)、気候変動(水温、酸素、酸性化)の変化に応じて進化する、ダイナミックな海洋保護区を構築する。
2 海洋のダイナミクスを組み込む
→ 海洋生態系は相互につながり、陸上生態系よりも速く変化することを認識する必要がある。そのため、複雑な生態系を考慮できる、堅牢かつ革新的な科学に基づき、保全ルールを柔軟に適応させる。
3 生態系の法的認知
→ ニュージーランドのワンガヌイ川の事例のように、特定の海洋生息域に権利や法的人格を認め、経済的利益からの圧力に対して保護を強化する。
4 種だけでなく「生命を支える機能」を守る
→ 種の多様性だけに注目するのではなく、炭素隔離などの重要な機能と結びつく機能的多様性も考慮する必要がある。
そのために、遺伝学・ゲノミクス、新たな顕微鏡技術、バイオインフォマティクス、人工知能(AI)などを活用し、生態系における遺伝的多様性や生態学的役割を含めた保全を行う。
5 「生きものとの関係性」を尊重する
→ 経済的な論理だけにとらわれず、保護区の設定や管理の初期段階から、地域コミュニティや先住民族を巻き込み、社会的・文化的価値を反映させる。
6 科学とガバナンスの革新
→ 新たなBBNJ条約のもと、公海を含む海域を対象に、外洋生態系に適した知識基盤を備えた革新的なツールを開発する。
→ プラスチック汚染、化学汚染、気候変動による影響を減らすことを、海洋保護区の実効性を高めるための不可欠な条件として位置づける。
これまでの保全戦略では見過ごされがちだったプランクトンの根本的な役割も忘れてはなりません。プランクトンは食物連鎖と炭素循環の基盤であり、効果的な海洋保護区を実現するうえで欠かせない要素です。
真に効果的な海洋保護区(AMP)に向けたタラ オセアン財団の提言活動
タラ オセアン財団は、以下の提言を国際的な議論の場で発信しています。
- 生物多様性条約(CBD)のCOP
生態学的・生物学的に重要な海域(EBSA)は、保護すべき海域を定義・可視化するための重要なツールです。私たちは、その定義基準を見直し、海洋のダイナミクスやプランクトンの役割を含めるよう提言しています。
- 「30by30」目標(2030年までに海の30%を保護)
この目標は、単なる数値目標にとどまるべきではありません。
私たちは、海洋保護区の実際の有効性が評価される必要性を強く訴えています。
- 公海条約(BBNJ協定)
私たちは、各国の管轄権を超えた海域、すなわち公海(沿岸から200海里[約370km]以遠の排他的経済水域(EEZ)を超える海域)において、海洋保護区を設置可能とする新たなガバナンスの枠組みの実装を支持しています。
この公海は、海洋全体の約71%、地球表面の約50%を占める、極めて重要な空間です。
2026年1月17日、BBNJ協定(国連公海等生物多様性協定)が発効しました。
- BRS-M条約群*/プラスチック条約
私たちは、これらの国際条約の目標が、生物圏、特に海洋生態系の保全目標と整合性を持つべきであると主張しています。
- 国・地域レベルでの取り組み
沿岸地域のコミュニティや科学者と協働し、適応型海洋保護区のパイロットプロジェクトを支援しています。
私たちのビジョン
種だけでなく、その生物学的機能(目に見えにくいものの、海にとって不可欠な働きも含めて)海洋生態系全体を守ることができる、ダイナミックな海洋保護区。
海洋保護区は、海洋生物多様性を守るために欠かせないツールです。しかし、その在り方は進化する必要があります。常に動き続ける海の姿にならい、静的な保護から動的な保護へ。
*BRS-M条約群:バーゼル条約(廃棄物)、ロッテルダム条約、ストックホルム条約(残留性有機汚染物質:農薬、PBB、PCBなど)、ミナマタ条約(水銀)