10分でわかるプランクトン
プランクトンは水域環境のいたるところに存在しています。多くは肉眼では見えませんが、海洋の働きを支えるうえで決定的な役割を果たしています。
この記事では、プランクトンとは何かを紹介するとともに、なぜ海の生態系や酸素の生産、地球規模の気候バランスに欠かせない存在なのかを解説します。さらに、この海中の小さな生命群がどのように生物多様性を支え、地球環境の調節に貢献しているのかを学びます。
プランクトンって?
定義:水中を漂って生きる生物たち
プランクトンは単一の生物種を指す言葉ではありません。海だけでなく、池・湖・河口域などの淡水環境にも生息する、水中のさまざまな生物の総称です。共通しているのは、長距離を流れに逆らって泳ぐことができず、水流に乗って漂いながら生きていること。この「漂う」という性質が、プランクトンを特徴づけています。
「プランクトン」という言葉は、古代ギリシャ語の planktos(漂うもの、さまようもの)に由来します。
このグループには、次のような生物が含まれます。
- 一部の微細藻類のような単細胞生物
- クラゲのような多細胞の成体生物
- 魚、ウニ、甲殻類などの卵や幼生、成長途中の個体などの幼若期の生物
プランクトンは何で構成されているの?
海には、地球上で最も多くの生物が生息しています。そして、この海洋生物多様性の95%は微生物によって構成されています。
海の見えない住人 ― 海洋マイクロバイオーム
プランクトンというと、目に見える生物を思い浮かべがちですが、その大部分は微生物によって構成されています。細菌、古細菌、原生生物、さらにはウイルスまで含まれ、これらを総称して「海洋マイクロバイオーム」と呼びます。
この生物群は、単に海中を漂っているだけではありません。海水中はもちろん、堆積物の上、サンゴや魚の表面、さまざまな場所に存在しています。
プランクトンには、植物性の微小生物である植物プランクトンと、動物性の微小生物である動物プランクトンの両方が含まれます。
覚えておきたいポイント
- プランクトンとは、「漂いながら生きる」という生活様式による分類
- 海洋マイクロバイオームとは、微生物とその生態系に注目した分類
植物プランクトン:海の「植物」のような存在
植物プランクトンは、機能的な意味での「植物」にあたる生物群です。光を利用して有機物をつくり出す、つまり光合成を行います。多くは単細胞の微細藻類で、非常に小さいものもあれば、群体を形成するものもあります。
植物プランクトンには、以下のような生物が含まれます。
- 珪藻(けいそう):シリカでできた殻のような構造を持つことが多い
- 一部の渦鞭毛藻(うずべんもうそう)
- シアノバクテリア(「藍藻」とも呼ばれる光合成を行う細菌)
植物プランクトンは、海における一次生産の大部分を担っています。太陽エネルギー、海水、二酸化炭素を利用して有機物を生み出し、海洋の食物網の出発点となっています。
動物プランクトン:海の「動物」のような存在
動物プランクトンは、動物に分類されるプランクトンの総称です。植物プランクトンや細菌、さらに小さな生物を食べて生きています。大きさや形態は非常に多様で、顕微鏡でしか見えないものから、肉眼で確認できるものまで存在します。
動物プランクトンには、次のような生物が含まれます。
- カイアシ類
- オキアミ
- 甲殻類、魚類、ウニなどの幼生
- クラゲの浮遊期の段階
動物プランクトンは、海の生態系における「橋渡し役」を担っています。微細藻類が生み出したエネルギーを、より大きな動物が利用できる生物量へと変換し、海洋の食物連鎖を支える重要な存在です。
プランクトンはどこに生息し、どのように移動するの?
プランクトンは主に、水面近くの光や栄養塩が豊富な場所に生息しています。しかし、季節や水温、天候などによって、より深い場所にも分布します。
プランクトンは自ら大きく移動するのではなく、海流、潮汐、風、水のかき混ぜや乱流、水温や塩分濃度の差など、水の動きによって運ばれています。一部のプランクトンは、水柱の中を上下に移動する「鉛直移動」を行います。特に夜間に見られることが多く、「日周鉛直移動」と呼ばれます。しかし、多くのプランクトンは基本的に水塊の動きに依存して生活しています。
ホロプランクトンとメロプランクトン:一生プランクトンなのか、それとも一時的なのか?
プランクトンを分類するもう一つのシンプルな方法は、「その生物は一生を通してプランクトンなのか?」という視点です。
- ホロプランクトン(終生プランクトン)
一生を通してプランクトンとして生活する生物。多くのカイアシ類がその例です。 - メロプランクトン(一時性浮遊生物 )
卵や幼生など、生活史のある段階だけプランクトンとして過ごし、その後は海底で暮らす生物や遊泳性生物になるもの。
この区別は、生物の成長や生活史を理解するうえで重要です。多くの魚類や海産無脊椎動物(ウニや甲殻類など)は、ライフサイクルの中でも特に脆弱な時期をプランクトンとして過ごしています。
プランクトン・ネクトン・ベントス:何が違うの?
海の生物は、大きく3つのグループに分けられます。
- プランクトン
自力で多少動くことができても、基本的には水流に乗って漂いながら生きる生物。 - ネクトン(遊泳生物)
魚、イカ、海洋哺乳類のように、自ら活発に泳ぎ、水流に逆らって移動できる生物。 - ベントス(底生生物)
貝類、一部の甲殻類、サンゴなど、海底や堆積物の中で生活する生物。
プランクトンは、海の食物連鎖を支える重要な存在です。また、多くのネクトン生物も、幼生期にはプランクトンとして生活を始めます。
プランクトンは生態系の中でどのような役割を果たしているの?
1. 海洋食物網の最初の担い手
プランクトンは、海の生命の大部分を支える出発点です。植物プランクトンは太陽のエネルギーを取り込み、有機物を生み出します。そして、その植物プランクトンを動物プランクトン(多くは甲殻類)が食べ、さらに魚類、クラゲ、海鳥、海洋哺乳類などの餌となっていきます。
また、プランクトンは物質循環においても重要な役割を担っています。微生物たちは有機物を分解・再利用し、窒素、リン、鉄などの栄養塩を再び環境中へ循環させています。つまり、こうした微生物がいなければ、多くの有機物は循環せずに滞り、生態系のサイクルは大きく非効率になってしまいます。プランクトンはしばしば「食物連鎖の最初の鎖」と表現されます。この基盤が弱まれば、海洋の食物網全体も脆弱になります。反対に、プランクトンが豊富で多様であるほど、より豊かな生物多様性を支えることができます。
2. 酸素の生産
植物プランクトンは光合成を行います。陸上植物と同じように、光、水、二酸化炭素(CO₂)を利用して有機物をつくり出し、その過程で酸素を放出します。
植物プランクトンによる光合成量は、陸上植物と同程度に達するとされています。ただし、その多くは海の中で直接消費されています。
このように、プランクトンは海洋生物の呼吸を支えるだけでなく、地球全体の環境バランスにも重要な役割を果たしています。
3. 海洋生物多様性の基盤
プランクトンは単に「餌」として存在しているわけではありません。海洋生態系全体の構造を支える重要な基盤でもあります。珪藻、渦鞭毛藻、幼生、小型甲殻類など、多様な形態のプランクトンが存在することで、さまざまな生物が共存できる豊かな資源環境が生まれています。
プランクトンは、以下のような点に大きな影響を与えています。
- 幼生や稚魚にとっての餌資源の供給
- プランクトンが豊富な海域に応じた生物分布
- 季節変動に対する生態系の回復力(レジリエンス)
また、プランクトンは海の健康状態を示す指標としても重要です。種類構成の急激な変化や海水の色の変化、ブルーム(大量発生)の頻度の変化などは、海洋環境のバランスの乱れを示している可能性があります。
プランクトンは海洋生物にどのような影響を与えるの ?
1. 餌・成長・繁殖を支える存在
多くの海洋生物は、卵、幼生、稚魚といった非常に脆弱な段階から一生を始めます。そして、この時期にプランクトンを餌として利用しています。
もし十分なプランクトンが存在しなければ、成長は遅れ、生存率も低下し、次の世代の個体数減少につながる可能性があります。
海中のプランクトン量は、魚類の幼生の成長や繁殖、さらに多くの生物の餌となる小型甲殻類の豊富さに直接影響しています。
つまり、すべての海洋生物は、プランクトンが生き続け、食物連鎖の中に存在していることに大きく依存しているのです。
2. ブルーム(大量発生)と生態系への影響
植物プランクトンが急速に増殖することがあり、これを「ブルーム」または「赤潮」と呼びます。優占する種類(珪藻や渦鞭毛藻など)によって、海水は緑色、褐色、時には赤みを帯びた色に変化することがあります。
ブルームは、地域や栄養塩の供給量、気象条件によって、冬から夏にかけてさまざまな時期に発生します。
ブルームは必ずしも悪い現象ではありません。動物プランクトンにとっての餌が増え、食物連鎖全体が活性化し、年によっては漁業にとって好条件となることもあります。
しかし、増殖が過剰であったり、特定の種が異常に優占したりすると、生態系のバランスの乱れを示す場合があります。例えば、一部の渦鞭毛藻は毒素を生産します。また、大量発生した植物プランクトンが分解される過程で、水中の酸素が大量に消費され、貧酸素状態を引き起こすこともあります。プランクトンを守ることは、地球環境の健全性、そして私たちが依存している海洋生態系の健康を支えることにつながっています。
プランクトンは気候にどのように関わっているの?
炭素循環
植物プランクトンは成長するために二酸化炭素(CO₂)を取り込み、有機物をつくり出します。
その有機物の一部は他の生物に消費され、変換された後、粒子状物質、排泄物、あるいは死骸となって海の深層へ沈んでいきます。こうして炭素は、一定期間海の中に蓄えられることになります。この仕組みは「生物ポンプ」と呼ばれ、炭素循環を支える重要な自然メカニズムの一つです。
気候変動の影響
気候変動は、海洋にさまざまな変化をもたらしています。たとえば、水温の上昇、水の成層化(混ざりにくくなること)、海洋酸性化、栄養塩環境の変化などです。そして、プランクトンはこうした変化に非常に敏感です。
海水の物理化学的条件の一つでも変化すると、生物多様性に影響が及ぶ可能性があります。
例えば、
- プランクトン種の分布域が変化し、一部はより北方へ移動する
- ブルーム(大量発生)の時期が早まったり遅れたり、不規則になったりする
- 生物の平均サイズが小型化する傾向が見られる場合がある
- 珪藻や渦鞭毛藻など、優占する生物群の構成が変化する
といった現象が起こり得ます。
こうした変化は、海洋の食物連鎖全体にも影響を及ぼします。
海洋酸性化(CO₂の吸収によって引き起こされる現象)は、海水の化学組成を変化させ、炭酸カルシウムの形成に必要な炭酸イオンの利用可能量を減少させることがあります。
しかし、円石藻や有孔虫のような石灰質の殻を持つ一部のプランクトンは、この炭酸カルシウムを利用して殻や構造を形成しています。そのため、石灰化により多くのエネルギーが必要になると、殻が薄くなったり、成長が遅くなったりする可能性があります。
こうした変化は、生態系全体のスケールでは、生物ポンプや、さらに広い意味での気候調節機能にも影響を与える可能性があります。
また、一部の海域では、海水の鉛直混合が弱まることで、深層から表層へ供給される栄養塩が減少し、一次生産量が低下する可能性があります。
一方で、地域によっては異なる反応が見られる場合もあります。海洋は非常に複雑なシステムであり、その影響の現れ方は海域ごとに異なります。
海におけるプランクトンのバイオマスとは?
バイオマスの定義と、推定が難しい理由
バイオマスとは、ある時点において特定の環境中に存在する生きた有機物の総量を指します。
しかし、プランクトンのバイオマスを測定することは非常に難しい課題です。なぜなら、プランクトンは広大な海洋空間に分散して存在しており、その量は季節、天候、栄養塩の状況によって大きく変動するためです。また、顕微鏡でしか見えない微小なものから肉眼で見えるものまで、サイズの幅も非常に広くなっています。
さらに重要なのは、プランクトンが絶えず更新され続けているという点です。ある瞬間のバイオマス量だけを見ると、他の生物群と比べて小さく見えることがあります。しかし、条件が整えば急速に増殖するため、その活動量や生態系への影響は非常に大きいのです。
プランクトンのバイオマスはどのように測定されるの?
科学者たちは、複数の方法を組み合わせてプランクトンのバイオマスを測定しています。例えば、以下のような手法があります。
海上での観測
- プランクトンネット
動物プランクトンや特定サイズのプランクトンを採集するために使用されます。 - 海水サンプルの採取と実験室分析
採取した海水を顕微鏡観察、個体数カウント、DNA解析などによって調べます。 - 搭載型センサー
蛍光や粒子量を測定するセンサーを用いて、プランクトン量を推定します。
植物プランクトンの指標
- クロロフィル
光合成を行う際の主要な色素で、海水が緑色に見える原因となります。植物プランクトン量を推定する重要な指標です。 - 光学的測定
光の反射や吸収を測定することで、プランクトンの量や種類構成を推定します。
広域観測
- 衛星観測
海水の色やクロロフィル量を観測し、海表面におけるプランクトン分布の傾向を地図化します。 - 長期データ・研究報告
数年単位で蓄積されたデータ系列を用いて、変動や長期的傾向を分析します。
ただし、どの方法にも限界があります。例えば、衛星は主に海面付近しか観測できず、プランクトンネットは採集できる生物サイズに偏りがあります。また、実験室での分析には時間がかかります。
そのため、信頼性の高いデータを得るためには、複数の観測手法を組み合わせることが重要です。
分布と「割合」
「海の中でプランクトンのバイオマスはどれくらいの割合を占めるのか?」という問いがよくあります。しかし実際には、プランクトンのバイオマスは非常に不均一です。
海域による違い
- 栄養豊富な海域:沿岸域、湧昇域(アップウェリング)、海洋前線域、一部の半閉鎖性海域など
- 貧栄養海域:大規模な海洋循環域(ジャイア)など
時間による変動
- 季節的なブルーム(大量発生)
- 気象現象
- 栄養塩供給の変化
などによって大きく変動します。場合によっては、海水の色の変化として目に見えることもあります。
少ない量でも非常に大きな役割
プランクトンは、ある瞬間のバイオマス量だけを見ると、それほど大きくないように見えることがあります。しかし、
- 増殖と更新のスピードが非常に速いこと
- 一次生産や物質循環を支える中心的存在であること
から、海洋生態系の活動を大きく支えています。
つまり、量としては小さく見えても、海洋の生物活動に対する影響力は非常に大きいのです。この「小さな存在が巨大な役割を担う」という点こそが、プランクトンの重要性を示しています。
日常の中でプランクトンを観察するには?
嬉しいことに、顕微鏡がなくても、プランクトンの存在はその「現れ方」から感じ取ることができます。海岸や海、湖畔などでは、いくつかの特徴的なサインを見ることができます。
肉眼でも、例えば次のような現象を観察できます。
- 海や湖の水の色が変化する(種によって緑色、褐色、赤色など)
- 穏やかな天候の後、水面にスープ状や糸状のものが広がる
- 一部の海域で見られる夜間の生物発光
- ゼラチン状の小さな塊(クラゲの浮遊期やサルパ類など)
プランクトンに影響を与えるものとは?
プランクトンは非常に繊細なバランスの中で生きています。環境の変化に素早く反応するため、海の状態を示す優れた指標である一方、とても影響を受けやすい存在でもあります。
主な影響要因として、以下のようなものがあります。
- 気候変動: 水温上昇、海水の成層化、季節サイクルの乱れなど
- 海洋酸性化: 一部の生物種や海水の化学バランスへの影響
- 汚染: 石油系汚染物質、農薬、重金属、化学物質など
- マイクロプラスチック: 一部のプランクトン生物による摂取の可能性
- 富栄養化: 沿岸域への過剰な栄養塩流入による異常ブルーム(大量発生)
- 生息環境や沿岸水質の変化: 沿岸域の環境悪化による影響
また、殻や石灰質の構造を持つ一部の生物種は、炭酸カルシウムの利用可能量の変化による影響を受ける可能性があります。
プランクトンは「海の見張り役」のような存在です。海洋の食物連鎖、生物多様性、そして炭素循環のような地球規模の循環を支えています。
プランクトンの役割を理解することは、海をより深く理解することであり、同時に、私たち自身が海の健全性にどれほど依存しているかを知ることでもあります。
よくある質問
プランクトンは肉眼で見えるの?
はい、見える場合もあれば、見えない場合もあります。
プランクトンの大部分は微小で、顕微鏡なしでは確認できません。しかし、次のような現象として目に見えることがあります。
- ブルーム(大量発生)によって海や湖の水が着色する
- ゼラチン状の塊が水面に集まる
- 一部の大型プランクトン(幼生や小型クラゲなど)が見える
池や沼などの淡水環境でも海でも、見えやすさは季節、光の条件、栄養塩の量などに大きく左右されます。
プランクトンは危険なの?
ほとんどの場合、危険ではありません。
ただし、特定の種(特に一部の渦鞭毛藻)が優占するブルーム(大量発生)が起こると、毒素を生産する場合があります。
こうした現象によって、二枚貝などのろ過摂食生物に毒素が蓄積したり、一時的に漁業や海水利用へ影響が出たりすることがあります。
ただし、こうしたリスクは限定的かつ局所的なものであり、多くの国で監視体制が整えられています。
覚えておきたいポイント
- プランクトンとは、水流に乗って漂いながら生きる水生生物の総称で、植物性・動物性の両方を含みます。
- 顕微鏡でしか見えないものから肉眼で見えるものまで多様で、植物プランクトン(微細藻類など)、動物プランクトン(カイアシ類、幼生、クラゲなど)、さらに一部の細菌や原生生物も含まれます。
- プランクトンは海洋食物連鎖の基盤です。もし減少すれば、オキアミなどの個体数が減り、魚類資源にも影響が及び、生態系全体のバランスが弱まります。
- 植物プランクトンは酸素を生み出し、二酸化炭素を吸収することで炭素循環にも重要な役割を果たしています。
- ブルーム(大量発生)、海水の色の変化、季節変動などを通して、海洋環境の健康状態を示す指標にもなります。
- プランクトンのバイオマス自体は小さく見えることがありますが、増殖と更新の速度が非常に速く、海洋生態系を支える大きな力となっています。